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「うん、それで?」
予定よりかなり遅く帰ってきたサエの為に作っておいたカレーを温めていた。おたまで具が沢山入った中身をかき混ぜる。それに踊らされるように人参やじゃがいもが浮き沈みをしていた。
「六畳位の部屋に冷蔵庫とベッドがあった。マットレスは自分で用意するんだって」
サエは着ていたダウンを脱ぎながら、仕事帰りに見てきたシェアハウスの説明をする。持ってきたスーツケースにダウンコートを掛けてから、壱の横に並んだ。
「いっちゃん作ったの?前は何にも作れなかったのに」
「今もカレーくらいしかムリ。手を洗ったらあっち拭いてきて」
壱の言葉に促されてサエはキッチンで手を洗い、その流れで台拭きも濯ぐ。
「じゃあ部屋決めて、ある程度色々揃うまでここに居なよ」
サエはその言葉にタオルを絞る手を止めた。そして再び動き出すと「それはできないよ。甘えてばかりはよくないし」とテーブルの方へと歩いていく。
「甘えて欲しいんだけど」
「今、ここに居ることで十分甘えてる」
壱は温まってクツクツ言い出したカレーの火を止めた。これじゃ、なんにも変わっていない。あの頃もうわべではそんなことを言っていて、それを信じたらサエを見失ったのだから。
「じゃあ、サエが甘えてくれないなら」
「うん?」
「俺が甘えるわ」
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