新生活

10/11

201人が本棚に入れています
本棚に追加
/187ページ
 聞いていた壱にもそれは突き刺さる言葉だったから、忘れられない。今考えれば、高校生に出来ることなんてあまりなかったはずだし、可能な限り一緒に居る努力はしていた。しかし、サエは普通よりずっと孤独でずっと一人だった。  サエの父はそんなサエを置いて新たな家族を作った。それがどんなにサエには辛い仕打ちだったか、想像するに容易い。だから、サエの父親は益々サエから遠ざかったのだろう。  そりゃ、悪いことをしていることを自覚してれば、顔向けできないだろうよ。新しい家族が居心地良けりゃ尚更、罪の意識からくる罪悪感で苦しいだろうさ。  それまで、壱はサエの父親はかなり格好いい人だと思っていた。背がすらりと高くスーツが似合う、顔だって整った、いかにも仕事が出来る男として壱には映っていた。しかし、サエの失踪事件を境に壱の評価は一変する。  自己中心的な大人。いや、違う。自己中心的人間だ。大人だろうが子供だろうが関係ない。  だが、あれから五年、サエの父親に対して感じていた憤りは同情へと変わっていた。  弱い人なんだ。妻に死なれ子供を失った悲しみからくる罪悪感。その救いを残された娘を育てるというパワーに変えられず、他へと見出だしたんだな。  居なくなられることは想像以上に耐え難いと体験した壱にも理解できた。だから、違う相手を見つけ付き合ったりするのは、壱も同じなのだから。人間は弱くて、脆い。時に強い人間もいるが、そう言う人が賞賛されるのは大部分の人が弱いからだと壱は知った。  次は強くありたい。サエは生きていて、またこうして顔を見ることが出来た。だから、つぎこそは強い人間でありたいと壱は思う。おじさん、俺は次こそ見失わない。
/187ページ

最初のコメントを投稿しよう!

201人が本棚に入れています
本棚に追加