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「いっちゃんのお母さんには……会うけど、心配かけてごめんなさいって言わなきゃならないのはわかってるから。でも、もう少し待ってくれる? 住所がきちんと言えるようになってから会いたい。ここで働いていて、ここに住んで居ますって言いたいから」
頷く壱にサエは言いにくそうに言葉を繋げていく。
「それであのね……お父さんにはまだ会いたくなくて……」
それにも壱は頷いた。いや、今度は前よりしっかりと頷いて見せた。
「俺、サエの味方だから。出来るだけサエのしたいようにする。でも、意見も言わせて……とは言っても、絶対サエが嫌だと思うことはしないからさ」
サエはスプーンを持ったまま俯いて、壱の作ったカレーを見つめて答える。
「本当はずっと連絡を取りなさいって言われてたの。でも、お父さんのことはどうしても許せないって言うか」
「わかるよ」
「私、心狭いんだと思う」
「いや、普通は嫌だろ。俺だったら嫌だよ」
おずおずと視線を上げて壱を見るサエは心なしか嬉しそうに見えた。これは安堵かもしれない。そんな風に思いながら壱はもう一度「俺だったら許せない」と口にしてから「でも、仲良くしろとは言わないけど、一応連絡はしたほうがいいよ。もし、万が一急に亡くなったりしたら、サエが後悔するし」とだけ言っておく。するとサエも素直に「わかってる」と小さな声で答えた。
五年も経過してるんだから、今更急ぐ必要もない。壱は改めて大人びたサエの顔を眺めていた。
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