決意

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「旨いよな、これ」  言いながら指で摘まんで口の中へ。 「どう?」  心配そうに覗きこむサエが可愛くて、あわてて目を閉じ味わうふり。 「これだな。まんま、あれだ」  そして持ち上げた瞼。サエが本当に嬉しそうに見上げているから、とにかく気持ちを紛らわせるために、また摘まんで口に入れた。  きっと、サエじゃなければ……そのまま身体を屈めて唇を落としていた。 他の誰より心臓が暴れるのに、サエにはいつだって慎重になる。壊したくないんだよ。壊したくないんだ。それで誰かに先を越されたとしても、頭を抱えるほど悔しかったはずでも、サエを前にすると随分昔の……若かった自分が顔を覗かせるから、笑える。五年だぞ。と、一人誰も居ない部屋で苦笑いをして、ふとシンクに移った自分を見ると、やはり高校の頃とは明らかに違う。
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