決意

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 降り立ったいっちゃんのアパートから最寄りの駅。単線の小さな駅だ。近くに有名なスタジアムがあって、そこでコンサートや野球の試合があるとあり得ないくらい人でごった返すのだといっちゃんが話していた。それがなければ混雑加減もほどほどで使い勝手は悪くないらしい。  人の流れに逆らわず、流れるようにエスカレーターに乗り、上の階へと上がっていくとそこには改札がある。二つ並んだ改札の右のを抜けると、今度は階段で下る。  休日のこの小さな駅は数人が歩いているだけという静けさで、混みあった駅だと吹き抜けてくる空気が温かったりするのに、ここのは外気そのままで冷たく、エアコンの利きすぎた電車で火照った頬に心地よかった。  駅前のコンビニで何か買って行こうか迷い、今日はやめておくことにした。 先ほどからいっちゃんに連絡を入れているのだが、なかなかメッセージに既読がつかない。もしかすると、出かけてしまっているのかもと嫌な予感がよぎるが、せっかくここまで来たのだからとにかく行ってみようと歩いていく。  細い道に植えられた街路樹は、歩道のタイルを押し上げている。それをひょいっと跨いでまた次の街路樹の元へ。なにせ道が細いので自転車なんかが来ると、木の陰に隠れるようにやり過ごす。いっちゃんもこんな風に毎日この道を通っているはず。そう思うと何もかも楽しい。冬の空気とか、街の匂いとか、全てを共有しているようで楽しくて仕方がない。   浮かれた気分でアパートにつき、階段を上っていく。自分の足音が軽快で、それに乗せられるかの如く、さらにテンポを上げて駆け上がり始める。
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