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三階分の階段を一気に上がるとさすがに息が切れた。ハァハァと乱れる呼吸を落ち着かせるため、深呼吸。いっちゃんのアパートから見るこの街は思いの外緑が多い。暮れていく日に染められた緑豊かな街はとても綺麗で、暫く見つめていたくなる。
街を見ながらいっちゃんの部屋まで続く通路を歩き、やっと部屋の前まで来た。
中に居ますように。小さく祈ってインターホンを押す。すると中からパタパタと歩いてくる足音が微かにし、扉を見つめていると、ゆっくりと押し開かれる。中から顔を出したのは綺麗な大人の女性だった。
互いに驚きをみせ、直ぐ様それを引っ込める。
紗英はつい乱れて混乱する頭を落ち着かせようと大きく息を吸い込んでからあたふたと話し出した。
「あの、私は……藤森壱さんの幼なじみで、えっとそれで……先日再会したばかりで、生活のリズムとか分かっていなかったもので……」
「ああ、聞いてるわよ。『サエ』さんね?」
パニックになりそうな紗英とは違い、きっといっちゃんの彼女であろう人は落ち着いて微笑みすら浮かべていた。
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