201人が本棚に入れています
本棚に追加
/187ページ
壱はシャワーを浴びて服を着ると、濡れた髪にタオルをかけて、バスルームから部屋に出て行った。
「ちゃんと洗った? 相変わらずカラスの行水なんだから」
部屋で正座をし、その膝の上で服を畳み、それを持ってきたスーツケースに閉まっていた亜由が顔も向けずに言う。壱は肩を上げるだけで返事をしない。冷蔵庫をあけてペットボトルの水を取り出した。
「今ね、幼なじみの『サエ』さんが来たわよ」
「え?」
ペットボトルキャップを回そうとしていた手がピタリと止まる。ぽたりと前髪から落ちてきた雫が手の上に当たった。
「私が出たらびっくりして帰っちゃった。追いかけたら?」
そこまで言うと、亜由の肩がフッと笑う。そして顔だけ振り返って、壱を見た。相変わらず清々しいほどさっぱりとした口調で続けるのだ。
「別れましょって言ってなかったね。半年ぶりに来てなんだけど……私たちもうとっくに終わってるんだから言わなくてもいいとも思ったけど、言うべきだね。別れましょ」
そう言ってまた笑う。綺麗なストレートの黒髪が優雅に揺れていた。
最初のコメントを投稿しよう!