決意

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 二人は大学時代から付き合っていて、亜由は壱の一つ上の先輩だった。学生の頃はよかったが、一年先に社会人になった亜由と壱の間にはなんとも形容しがたい溝ができ、忙しさも手伝ってだんだんと会う機会が少なくなっていった。所謂、自然消滅状態だったのだが、少し時間が取れるようになった亜由が今日は壱の部屋においた荷物を取りに来ていた。 「なんか……ごめん」  壱が言うと、亜由はふふっと笑ってまた背を向ける。 「全然。はっきり言った方が次に行きやすいじゃない? 私ね、最近気になってる人いるの。だから好都合」 「まじか。いや、応援してるよ。亜由だったら誰でも即OKって言うだろうし、応援なんていらないかもしれないけど」 「いい女だもんね?」 「いい女だよ」  また亜由の肩が楽しそうに揺れて、そして今度は正座していた身体をくるっと滑らせて座ったまま壱の方へ向いた。 「早く行きなさいって。ショック受けてたから『サエ』さん」  ショックを受けていたと言う亜由に、壱は単純に驚いていた。なぜならサエは、つい先日まで男と同棲していたのだから、壱の部屋から女が出てこようがショックなんて受けるわけないのに。 「あ、その顔! 疑ってる。嘘じゃないけど? 壱ってさ、案外相手の事思い過ぎていろいろ聞かないけど、時にはしっかり聞いたほうがいい時もあると思うよ? 手遅れになる前に。元々、人の気持ちにはちょっと疎いでしょ?」
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