決意

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「え? なんか俺まずいこと言ったか?」 「それって……私のせい? 私が急に押し掛けたから……」 「いやいや、違うって。元々距離があって自然消滅状態をさっき解消……」 「ほら!」  しょげかえっていたのに、今はちょっと膨れっ面で詰め寄るサエに振り回されていると、先ほど追い抜かしてきた老女がニコニコしながら歩み寄ってきた。 「間に合いましたか?」 「あ、はい」 「階段をあんな風に何段も飛ばして駆け上がるなんて、若くなければ出来ないわね」  はぁ。などと間の抜けた返事をした横で「危ないよ、いっちゃん」とサエが壱をたしなめる。すると老女が口に手を持っていきフフと笑って「許して上げて、このお婆さんに免じて。私は気持ち良かったわよ。若ければ一緒にやりたかったわね」と振り返って階段の方を見た。  この上品なお年寄りが階段を駆け上がる姿は想像できないが「そんなに楽しそうでしたか?」などと問うサエと老女のやり取りを微笑ましい気持ちで待っていた。  頭を下げて去っていく老女に二人も揃っておじきして返す。小さな背中はゆっくりとホームへと消えていった。
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