決意

26/31

201人が本棚に入れています
本棚に追加
/187ページ
「なんだよ。俺の事奪ってやるくらいの気持ちはないのかよ?」  引いた手を強く握ると、サエもぎゅっと力を込めてきた。 「私、いっちゃんと一緒に居るのが一番幸せなんだって思ってる」  じゃあ、尚更奪ってやるって思ってもいいものを。なんとなく、自分ばかりサエが好きみたいな気がして、悔しい。そんな壱を横から見上げて、サエが真面目な顔で言う。 「どんなポジションでもいい。とにかくいっちゃんの近くにいることを諦めない。そう決めたんだ。もちろん隣に居たいけど、隣に居たのに私が……」  そこで壱が木製の枠にステンドガラスがはめ込まれたドアを押したから、サエは話を中断した。カランと乾いたカウベルがひと鳴きすると、カウンターの向こう側に立っていた髭を生やした男性が顔を上げる。 「いらっしゃいませ。二名様?」  壱が頷くと、その髭の男性は店の奥にある一組しかないテーブル席に、掌を上にして二人を促した。  男性の背後にはたくさんのカップとソーサーが並んでいて、一組一組色も形も違う。そして、店内はコーヒーの良い香りが充満していた。なにより、薄着の壱でも温かいのが一番嬉しかったが、それはともかくサエの手を離して向かい合わせで席に着いた。  テーブルの端にあるメニューを取ると、サエにも見えるように真ん中に置く。するとサエもそれを覗き込んで「あ、ウィンナーコーヒーがいいなぁ」なんて言いながら、違うものを指でなぞりながら読んでいく。
/187ページ

最初のコメントを投稿しよう!

201人が本棚に入れています
本棚に追加