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「俺もサエも、理由はどうあれ違う人間と付き合った。それでも俺はまだサエが良いと思ってる。ただの正義感とか独占欲とかそんなんじゃなくて、サエが……好きなんだなって改めて思った」
じいっと問うような視線を投げてくるサエに、壱はだんだん恥ずかしくなってきて、顔を横に向ける。視線の先に、たまたま古い映画のポスターが額に入れられて飾られていた。男女が見つめ合うそれは言葉が無くても分かる、キスする寸前。つい、ちらりとサエを横目で見ればまだ壱を真っ直ぐに見つめていた。
「あんまり見てるとキスすんぞ!」
照れ隠しで言ってみたのに、サエはサエで照れながら「いいよ」なんて返してくる。言った直後からサエが顔の筋肉をムズムズと揺らし、耐えきれなくなって破顔しクスクス笑い出した。壱も釣られて小さく笑う。
「お待たせしました、ウィンナーコーヒーになります。ごゆっくり」
にっこり微笑んで二人にコーヒーを置く店主とおぼしき人物。きっと聞くつもりがなくても会話が聞こえていたのだろう。口元の笑みがはっきりそれを物語っていた。
「ねぇ、いっちゃん。私ね」
まだ笑顔のまま、サエは届いたばかりのコーヒーにシュガーポットからコーヒーシュガーを取り出し、落としこむ。パンくずに似た歪な形のそれは、コーヒーに着水するとジュワッと泡を吐き出してから沈んでいった。
「私失敗して学んだの。もう、好きな人としか付き合わないって決めてたんだ。だから、いっちゃんと付き合えないならずっと一人だし、それならそれで気兼ねしないでいっちゃんちに遊びに行けるとか考えてたんだよ」
「この前の人、居なくなってショックだったから?」
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