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コーヒーがなくなったタイミングでテーブルの上に置いてあった壱のスマホが光った。ボタンを押して画面を開くと亜由からのメッセージだった。
『荷物全部まとめて家を出ました。鍵はポストの中。お待たせ、お部屋が空きましたよ』
メッセージの下には『頑張れ』と言っている犬のスタンプ。『私は元気です』と丁寧に頭を下げている女の子のスタンプ。一つしか違わない亜由は一年の差よりもずっと先を歩んでいる大人なのだ。出会った時からそうだった。
『ありがとう。今度飯おごるから』
壱の返事に既読はつくものの、返事はこなかった。そう言うところも大人だと思う。無駄なやり取りはあまりしないそんな女なのだから。
「さて、そろそろ帰るか」
壱はスマホの画面を消してサエに言うと「あ、私いっちゃんの家に行ってタッパー引き上げて帰りたい」と、腰を上げた。
「もちろん一緒に帰るだろ? なんなら泊っていけば?」
下心はあるけれど、それよりなにより一緒にサエが帰るのが当たり前のような気がしていた。しかし、サエは中腰のまま顔を壱の方に向けて「それって……」と疑うような顔。壱はすくっと立ち上がり、テーブルに置いてあった鍵をデニムの右ポケットに、スマホを尻のポケットに押し込んだ。
「ま、そういう事も含めて? 俺たち、付き合ってるんだし」
「いつから?」
「ずっと前から」
サエは今度こそしっかり立ち上がって、じゃあさと壱に挑むように問う。
「五年間、いっちゃんはずっと浮気をしてたんだね」
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