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答えは海に沈んでいる
もしかすると一生、この景色を見ることが出来ないのではないかと思っていた。
いっちゃんが借りた車は白のプリウスだった。初めはその静かさに喜んだけれど、生まれ育った街に近づくとその静寂はかえって緊張を増幅させる。
持っていたペットボトルをきつく握りしめ助手席に座る紗英の元に、いっちゃんの手が伸びてきて励ますように膝に置かれた。
「いっちゃん、あのね。おばさんにトップスのチョコケーキ買ってきたよ」
「ああ、聞いたよ。着いた時に忘れないように言ってって話だろ」
「話したっけ……ごめん」
「いや、別にいいよ。次話したら四回目になるだけ」
え。と小さく驚いて運転席のいっちゃんを見ると、いっちゃんは「嘘だけどね」と目の横に笑い皺を寄せていた。
「まだ二回目。そんなに緊張するなよ。電話した時、電話口で大騒ぎしてたから大丈夫だって」
紗英は頷いてから、窓の外へと目をやった。
二人が通った小学校の桜並木。既に葉桜になっていたが、それでもぱらりぱらりと花びらが舞っていた。
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