答えは海に沈んでいる

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 桃田さんは紗英にそうなのかと鋭い視線を投げてくるし、林さんは横で仁王立ちしているし、板挟みの紗英は頷きたくないと思いながらやっと首を縦に振る。 「紗英ちゃんはこの街に合わないだろ? 桃田だって前に言ってたじゃん」  助太刀してくれるのはありがたいが、桃田さんの顔が渋くなる一方なのを見ていると、紗英は居たたまれなかった。確かに二十四時間営業のここより、普通の営業時間の店で働いた方がいっちゃんには会えるけれど、桃田さんには恩があるのだ。 「あー、もう。林さんが言い出したんだから、誰か代わりの人見つけてくれよな」  桃田さんはデスクの横に常時置いてある名刺ホルダーを取り出した。回転式のホルダーをペラペラと捲っていって、指でなにやらなぞってみてから、店の固定電話の受話器を取り上げる。ボタンを押しながら「君たちさ、水替えとかやった?」と声を張る。  紗英は弾かれたようにパタパタと動き出したが、そんなのどこ吹く風の林さんはトコトコと歩いていって、桃田さんの横で電話の内容を聞いていた。  結局、二人のお陰でトントン拍子に話は進み、新しい仕事先の花屋と、花屋の近くのシェアハウスに移ったのはそれから一ヶ月後の事だった。
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