海に沈んでいる

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「さよならの理由はお母さんが海に持って行っちゃったんだなぁ」 「いつまでもサエがこうやって会いに来てくれるようにかもしれないけどな。理由を求めてさ」  うん。と短く言うと、よいしょっと立ち上がり、そして壱の手を引き上げて立ち上がらせる。 「ケーキ食べる」 「俺んち今誰も居ないけどな!」 「大人になるのはもうちょっと先で」  いっちゃんがそういう空気を上手に作れるようになったらねって笑うサエを見て、それじゃいつになるかわかんないじゃんと壱は思う。まあそれも、理由なんてなくて、なんとなくできるようになるかもしれないし。  サエのリボンが揺れている。ちょっとだけ振り返ったサエは海に向かって「またね」と告げると、壱の手を握り直した。  随分歩いてからなんとなしに振り返ると、誰も居ない防波堤にカラスが二羽チョンチョン跳びながら移動していた。
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