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「あれ? マジで! サエだ」
いっちゃんの声を半音上げただけの、そっくりな声が背後から上がる。振り返ると、今度はサエがびっくりして「いっちゃんだ」と思わず口に出した。
いや、本当はこの人物が誰なのかわかっていたのだが、あまりに高校時代のいっちゃんそのもので、心底驚いていた。
「それな! 母さんもたまに言うんだ。似すぎて気持ち悪いって。つーか、久しぶりだね。おかえり」
口調はいっちゃんより遥かに軽い気がするが、それでも間合いの取り方とかそっくりだ。昔のまま何の気兼ねもしないいっちゃんの弟に抱きつきたい気分だった。
紗英の愚行を知らないわけがないのに、新は新のまま、前と変わらず゛サエ゛として扱ってくれる。いっちゃんちの家族は皆そう。当然のように紗英を受け入れてくれた。紗英の方が新よりよっぽど身構えてしまうし、高校時代のいっちゃんみたいでなんだか照れ臭かったりしていた。
「ただいま。すっかり高校生だね」
「そそ生憎、俺は未だに高校生。いいね二人は大人でさ。勉強から解放されてー」
そこへ自転車を押したいっちゃんが姿を現した。見慣れたはずの自転車もやはり月日の流れを感じる程には色褪せて埃っぽい。
「空気入れたけど、なんかもうぐでんぐでん。新、おかえり。新さ、チャリ貸して」
「んー。サエになら貸す」
そう言って、手で押していた自転車のサドルを早速下げ始める新。手際よく瞬く間に一番低いところでサドルを固定した。
「なんでサエ限定なんだよ」
「壱は自分のそれに乗りゃいいじゃんか」
「そっちの貸せよ。二人乗りしてくから」
「はぁ? やめろよな、俺このチャリ大事にしてんだから」
二人のこういうちょっとした言い争いすら懐かしく、そんなことが嬉しくて紗英がニコニコして聞いていると、顔を横に向けた新がぬっと手を伸ばしてきて紗英の目の下に指先を添えた。
「なんで泣いた? 壱とケンカしたら俺が壱蹴っ飛ばしてやるから」
「おいおい、触るんじゃねぇよ。なんだそれ、そうやって女の子たぶらかしてんのか」
喚く壱に「おっさんだな、言うことが」と新が呆れて、紗英に自分の自転車を譲る。
「弟にヤキモチとかばっかじゃねーの」
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