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若い男は満面の笑みだったが、石田の方は表情を変えなかった。むしろ不機嫌そうに若い男の頭をどつく。
「もっと続きそうなのを連れて来いよ。お前の連れてくる子は根性が足らないって言われてんだぞ」
「えー、AVに移った子は皆売れてますよ」
「女の闘いに負けて行き場を失っただけだろう。まあ、いいや。この子は俺が預かっておくからお前は次探してこい」
紗英は結局そのまま石田に今の花屋に連れていかれて、働くことになった。もう五年も前の話だ。
「お前みたいな女は熾烈な競争社会じゃ無理だからな……それにお前は俺の女に似てたんだよ。幸せにはしてやれなかったけど、まあ似てるお前をぎりぎりのところで気質の世界に留まらせたことで罪滅ぼしになるかもって考えちゃったんだな……何の気の迷いかなー」
出会った頃の話になると、石田さんは必ずそう言って自嘲気味に笑うのだった。本当は罪滅ぼしになんてなっていないと言わんばかりに、口を歪めておかしくなさそうに笑う。紗英はケーキを食べすすめながらなんとなく頷くことしかできないのだけれど。
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