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「はい、これソファーんとこね」  厨房と店を繋ぐ壁に作られた大きな口は食べ物のやり取りをする場所。そこから紗英は出されたカナッペを持って、ソファー席まで持っていった。  歩くときに少し気になるのは、開店前に求められるままにマスターと寝たからだ。あの雨の日から、会うたびにマスターとはそういう行為に及んでいるが、未だ少しだけ痛かった。  ソファーには近所に住む年配のグループが遊びに来ていた。この人たちは常連で、紗英とも何度か顔を合わせていた。 「お待たせいたしました。カナッペです」  手を上げて皿を受け取ってくれた女性がほろ酔いで紗英をじっと見つめてから言う。 「んんっと、思い出した! 佐々木さん」 「いやいや、それ前に働いてた子だろ。この子は、紗英ちゃんだよな?」  横から笑いながら突っ込む白髪交じりの男性に、紗英は頷く。間違えた女性はカナッペを置き、放さず持っていたグラスからビールを一気に口の中へと流し込む。このグループが本当によく飲むのだ。 「ぷはっ。だってさぁ、なんとなく雰囲気似てるんだもの。敬ちゃんってば、好みでバイトの子選ぶから」 「かわいい子が運んでくれるんだからいいじゃないか」  男ってこれよ? やあね。と、女性は肩を上げて紗英に言うが、紗英は曖昧な笑顔で頭を下げて厨房の方へ戻って行く。 「敬ちゃん、わがままなお坊ちゃんだったのにお店なんてやっちゃって、人間成長すると変わるものよね」 「いいじゃないか、昔の話は」  繰り広げられる昔話、賑やかな笑い声。 「ライスコロッケもうすぐ行くよ」  マスターに声を掛けられて、紗英ははい。と返事をして、手が空いたので皿を出そうと厨房へ入って行った。厨房に入らなくても店内にはいい香りが漂っているのだが、厨房はさらに匂いが増す。温度も少しだけ高い。皿を持った紗英がマスターの元へ行くと、マスターが紗英にニコッと笑顔を向けて耳元に口を持ってくる。 「身体大丈夫? ちょっと激しくしすぎちゃったから」  紗英が顔はぼっと火がついたように赤く染まる。
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