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数秒にも数十分にも思えたキスを終えて、ゆっくりと離れる。夜闇に慣れた私の目には、彼女の眦に溜まる涙が見えた。その涙の意味を問うことは私はしなかった。私にはきっとそんなことを知る権利はなかった。
私が手を伸ばすより早く、彼女はその涙を拭うと、指をまた私の脚の間へ戻す。潤んだ入り口に触れる。微弱な電流にも似た感覚が走って、私は微かに息を呑む。
「七美」
「……なに」
「ぬれてる」
小悪魔めいた微笑みとともに彼女が囁いて、焦らすように指を動かす。私は恥ずかしくなって視線を逸らす。……彼女に甘い言葉をかけられ、押し倒されてまさぐられて、確かに私は濡れている。
けれど本当は、私を彼女よりよほどひどく濡らして狂わすことができる人がいて、彼女はそんなことを知る由もなくて。不実を必死に隠している、自分の心が恥ずかしくて。
ごめんね。
声には出さずに、唇の動きだけで伝えてみる。声に出す勇気なんてあるはずもなかった。臆病者で、卑怯者で、けれどそんな自己嫌悪に陥ってでも彼女とともにいたいんだ、と自分に言い訳をした。
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