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 とめて、と読唇したのだろう、彼女は指をそっと離してから首を傾げた。その動きで、彼女の背中から零れてベッドにまで触れている長い黒髪が揺れて、私はくすぐったさに身をよじった。彼女の髪からは、いつも花の香りがする。それが零れて私を包んでいると、私はまるで花でできた籠の中に閉じ込められているような気分になる。けれどそれは私の勝手なイメージに過ぎない。だって彼女は私を束縛したいだなんて微塵も思っていない。  縛られたがっているのは、決断の理由を欲しがっているのは、私の方。 「菫」 「どうしたの」 「もっと、強くして」 「ん。わかった」  私の選択が逃避だとも知らぬまま、優しい笑みで彼女が頷いて、這入ってくる。私の喉から喘ぎ声が溢れて、部屋の曖昧な気温の中へ消えていく。 †  私が菫の家へ泊まりたいと思う時は、前日までにその旨を伝えておかなくてはならない、という決まりが私と彼女の間にはある。  そこには菫の家庭や人間関係の複雑な事情がある、というわけではない。菫はアパートの一室で一人暮らしをしているので家庭の事情も何もない。あるのはもっと単純で彼女らしい理由だけだ。即ち、菫が私に手作りのご飯を食べさせたくて、その準備のために時間が欲しい、という理由である。 「七美。そろそろ起きて」 「ん……」  菫のベッドの上、服も着ないままタオルケットに包まって夢と現実の間をうろうろしていた私を、声と優しい手が揺り起こす。ようやく意識が現実の側に固定できたので身を起こすと、おはよ、と菫が言って、啄むようなキスをくれた。視界いっぱいに広がる綺麗な顔立ち。 「そろそろ朝ご飯できるからね」     
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