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防具というか衣装を選び終えたハルはミカエルと共に夕食を食べに歩いていた。踊り子というのは踊りを踊って的を翻弄したり味方を支援したりするのが主な役目だ。武器のようなものは必要なく、指南書を買いその通りに踊れば魔法のように自然と効果がかかるというものだった。勿論初心者のハルには指導者が必要となる。せっかく代々踊り子の家系なのだから家族に教えて貰えばよかったが、家族に自分が踊り子だということは知られたくなかった。だって男なのに踊り子なんて知られたら笑われるに決まってる。
「ハルは踊りはどうする?習いに行くかい?」
「あ、はい、うん。適当に探してみるよ」
街には踊り子の為のレッスン場がいくつもある。そこで踊り子は踊りを習得して実践に出るのだ。
ハルは出来るだけひっそりとした場所にある人の少なそうな場所に行こうと心の中で決めていた。
「夕食はここにしようか」
ミカエルが指差したのは今まで入ったことのないようなバルでハルは少し身震いした。
「ここってちょっと高いんじゃ…?」
「大丈夫だよ、僕が奢るから」
「いやいや、それは悪いよ!」
「僕が君をパーティーに選んだんだ。そのお祝いとして受け取ってくれないか」
そう言われると断りづらくなる。ハルは頭をかきながら、そういうことなら有り難く受け取ります、と答えた。
店には入り適当な席に座る。店の中には豪華なシャンデリアが飾られており、品のいいBGMと共にオレンジ色の照明が机を照らしていた。ミカエルが店員を呼び止め、料理を注文する。その間もハルは見たことがない景色にそわそわしながら、漂ってくるいい香りにお腹を空かせていた。
「こういう店は初めてかい?」
「うん、来たことがないよ!すごい店だ」
「働くようになればこのくらいの店毎日来られるようになるよ」
ミカエルはにこりと微笑んだ。整った顔の爽やかな目元が細められ、大きな手のひらがぽんとハルの頭の上に置かれた。
「あの…子供扱いしないでくださいよ」
「あぁ悪い、つい君が可愛かったからね」
可愛い!?ハルはミカエルの言葉に耳を疑った。成人したてのヒョロガリ男を捕まえて可愛いなどと形容されたのは初めての経験だった。もしかしてミカエルは勇者という凄すぎる仕事をして頭のネジが少しズレてしまったのではないか。
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