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来週末から魔物退治に出掛けるからそれまでに支援の踊りを一つでいいから覚えてきてくれ、とミカエルに言われ、今日は別行動だ。
ミカエルに発掘されてパーティーを組んでからなんだかんだミカエルの宿に寝泊まりして家に帰らずにいた。ずっとミカエルと一緒だったので少し不思議な気持ちで街を歩く。隣にキラキラ王子様オーラを出す人物がいないのは随分と気が楽だった。人の視線が気になって仕方がなかったのだ。ハルは少し肩の荷が下りたような気持ちで、稽古場へと向かう。
街を繁華街とは反対方向に下り、住宅しかないような閑静な土地へと赴く。その一角にひっそりと稽古場はあった。なんの看板もないそこは地図と見比べると確かに正しかったが、とても稽古場があるようには思えなかった。
普通の住宅にしか見えない玄関を潜り、ドアを叩く。
「すみません、踊り子の稽古をお願いしたハルと申します」
しばらくして扉がガチャリと開く。中から出てきたのは紫色の衣装がよく似合う妖艶な金髪の女性だった。
「あら、ほんとに来たのねいらっしゃい」
街の外れの掲示板で、ここの広告を見たときすぐにピンときた。人に見られたくない方、こっそり練習したい方にオススメ、完全個人レッスンと書かれたここを見つけた瞬間ハガキを取り、事情を説明して応募したのだ。
中に入るとそこはしっかりとした稽古場だった。一面を鏡の壁が覆い、練習用のマットが敷かれている。思ったよりもちゃんとしている所だということに安堵する。
「本当に男の子なのね、あなた」
「はい、そうなんです…」
「いいわ、私の力であなたを立派な踊り子にしてみせるわ!さぁはやく着替えて」
パンパンと手を叩く彼女に急かされて持参した衣装に着替える。ミカエルに選んでもらったものだが、思ったよりも違和感なく着られてハルは満足だった。
「あたしの名前はセリーヌ。よろしくね」
「ハルです、よろしくお願いします!」
それじゃあ早速レッスンね、とセリーヌは鏡の前に立った。踊りを踊るだけで魔法効果を発動できるという特殊な能力を持つ踊り子には踊りの上手さは必要不可欠だ。見本として踊り始めた彼女は本当に魅力的で目が奪われた。これが本当の踊り子というやつか。
しなやかな手足が自由に空を舞い、美しく曲線を描く。その動作一つ一つに魔力が込められているかのようだった。
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