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セリーヌの踊りを身終えたハルは思わず拍手をしていた。衣装を着ておいて棒立ち阿保面で鏡に映る自分は情けなかったが、その分セリーヌの美しさが際立つようだった。
「なに惚けてるの、あなたもこれをやるのよ」
「へ?はい!」
それからの練習はとても厳しいものだった。手の上げ方、足の出し方から息遣いまで一つ一つ指摘される。踊りというのは思ったよりも随分と難しいもので、一つの踊りを覚え終わる頃にはヘトヘトになっていた。
「なんとか形になったわね」
「はい~もう疲れました…」
「最後にこの踊りの効果を一番高める方法を教えてあげる」
この踊りは味方の攻撃力と防御力を上げる踊りだ。最も基礎的な踊りで初歩の初歩だった。効果を高める方法は是非学んで身につける必要があった。ハルは疲れながらも前のめりになってセリーヌを見つめる。
「それは…キスよ!」
「は?」
「支援したい相手にキスするのよ、こうやってね」
セリーヌに突然おでこにキスをされる。突然のことに呆然とするが、そのうち力がみなぎって来る感じがした。
「あ、あの…」
「本当は唇が一番なんだけどね。あなたにはまだおあずけ」
そう言って悪戯っぽくウィンクしたセリーヌにハルは狼狽えるしか出来なかった。
「なにそんなぽかんとしてんのよ」
「だ、だって、女性にキキキキスなんてされるの初めてで…」
「あら、私言ってなかったかしら?」
セリーヌはひらりと身を返して座り込んだハルと目線を合わせるために屈んだ。
「私、男よ?あなたと同じ」
「は??」
「ほんとほんと、見る?」
「いやいやいや、見ませんけど!え、ほんと?」
「いやーん、そんなに信じられない顔してくれるなんて踊り子冥利に尽きるって感じ」
「えぇーーっ!?」
ハルはこの春二番の衝撃を受けた。一番はミカエルがパーティーメンバーに選んでくれたことだ。
こうしてハルは晴れて踊り子としての第一歩を踏み出したのだった。
「ハルちゃん、可愛いわね…食べちゃおうかしら」
セリーヌがそう呟いたことをハルは知らない。
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