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出てきたの狼のような大きな獣だった。鋭い爪と牙を持ち、複数体で威嚇してくる。じりじりとにじりよるそれらに対峙する二人は目を見合わせて戦いの合図とした。ミカエルが剣を抜く。それに合わせてハルは習いたてほやほやの踊りを踊り始めた。一生懸命踊るハルをミカエルはちらりと見たが、その後魔物へと切り掛かって行った。
ミカエルの剣戟に一匹の魔物が悲鳴を上げる。さすがミカエル、剣の腕も確かなようだ。これなら順調に滞りなく終わりそうだ、とハルは安心する。
踊りもうまく行っているようで支援魔法がかかった時に出てくる赤いもやがミカエルの周りに纏っていた。
ミカエルが二匹目に間合いを詰め、切り掛かる。踊りはそろそろ終わりに入っていて、重ねがけの踊りに入ろうとしていた。
やっぱりミカエルは強い。実力はかなり上の方だ。そんな彼が一目惚れだけで素人の僕なんかを仲間にして本当に良かったのだろうか。いや、それは彼の意思だから良いのだろうが、腑に落ちない部分があった。
二匹目を斬り伏せ、三匹目が怯んでいる。このままいけば余裕だろう。支援の踊りもいらなかったくらいだ。かといって棒立ちで見ているわけにも行かなかったから踊り続けるが。
余裕を感じ、ミカエルの戦いをじっと見つめていると突然ミカエルが振り返った。ハルは何かよくわからず首をかしげる。
「ハル、危ない!」
声とともにミカエルが勢いよく飛び出しハルの上に覆い被さる。その上をなにかが掠めた気がした。
「うわぁ!ってて、ミカエルどうしたの?」
ミカエルから返事はない。ハルはミカエルの下からなんとか抜け出し、ミカエルを見て驚愕した。
丈夫な筈の銀の鎧に爪痕がくっきりとついていた。そして残り一匹だと思っていた魔物が二匹に増えている。おそらくハルの背後から隠れて襲ってきたのだろう。魔物二匹に睨まれながらハルはミカエルに飛び寄った。
「ミカエル!」
ミカエルは気絶をしているのか返事はない。これはまずい状況だった。ハルをかばって身を呈したせいでミカエルが倒れてしまった。何かしなければ。ハルは頭が真っ白になる。そんな時ふと思い出したのはセリーヌの言動だった。
キスをすれば踊りの力は強くなる。特に唇だとね。
力を与えるにはこれしかない。ハルは焦ってミカエルの顔をこちらへ向かせた。ええい、やるしかない。
そしてハルはミカエルにキスをした。
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