薔薇色の世界、桜色の生活

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「BL、卒業しようかと思って」  十月の第三週、休日のファミレス。中学時代からの十年来の親友、卯島杏子(うじまきょうこ)にそう告げられた白井睦美(しらいむつみ)は、友の言葉の意味を、一瞬、呑み込むことができなかった。口の中に入れた牛タンと共に頭の中で杏子の発言を咀嚼してから、ようやく事の重大さを理解したのだった。 「えっ!本気?!」 「本気」  杏子の言うBL…それは、「ボーイズラブ」のことだ。ボーイズラブという男性同士の恋愛を扱った…だがあくまでファンタジーと言える創作物を好む女性達は腐女子と呼ばれ、その名称と存在はつい数年ほど前頃より世間に知られるようになっていた。  杏子は、そういった腐女子の一般化が始まる遥か以前からの根っからの腐女子だ。彼女がBLに嵌り始めたのが中学二年の時だったから、その腐女子歴はもう十二年になる。人生のほぼ半分を彩った嗜好を突然、絶つとは。軽い口調に反して、大事件であった。 「えっ、えっ!?…なんで?」 「もうそろそろ、いいかな~って」  そう言って鶏の竜田揚げ頬張った杏子を見る睦美は、腑に落ちない気持ちをもろに顔に表した。  杏子と睦美は、中学一年の時にクラスメイトとして出会い、すぐに意気投合した。出会った当初には、お互いの趣味である読書についてが二人の話題の中心だったが、ある日、杏子の方がボーイズラブに出会ってしまった。
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