浮遊病

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巽はそう言って、自分のコーラの蓋をぴしゅっと開けながらベンチに腰掛けて一口二口飲んでから。 「…そうだな。どっから話そうか…ってか、名前聞いてなかったな。俺は井上巽。君は?」 「藤野和樹」 「かずきって、どう書くの?」 「和製の樹木」 「へぇー。樹生と同じ字じゃん。こりゃ、本当に兄弟みたいだな」 「新しいお母さんも、そう言ってた」 「…そっか。樹生が浮いたのを見たのって、いつごろ?」 「先月。引っ越してすぐ」 「あぁ…どんなふうに浮いてた?」 「……なんか、布団にくるまってて、顔はよく見てないけど…饅頭が浮いてる感じ」 「ふふっ、饅頭か。そりゃ良いな」 「…信じてないでしょ?」 「信じてるよ。俺が見た時は、ベッドに両手両足縛られた状態だったからな」 「え?」 当時中学生だった本当の兄である巽曰く。 弟、樹生は幼稚園の頃から夢遊病の気があるらしく。寝ながらトイレに行くのはざらにあるらしかった。ある日、その病気に対して適切な知識を持っていなかった巽の父が夜、樹生の両手両足をベッドに括り付け。翌日の早朝、物音に起きた兄が部屋に入れば。 ベッドに括り付けられたまま、樹生の体は宙に浮かんでいた。 「……」     
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