浮遊病

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浮遊病

浮遊病 弟について、俺はあまりよく知らない。 そんな事を言ったら兄貴失格だと言われそうだが、あいつには別にちゃんと兄貴がいるので別にどうとも思わない。まぁそれでも確かに俺は兄貴と言えば兄貴なので強ち間違ってもいない。では、ちんけな兄貴らしさを保持するべく俺が知る限りの弟についての事柄を挙げてみようか。 ・甘党。 ・結構お洒落。 ・超がつく小食。 ・宙に浮かぶ。 最初にその光景を目撃したのは、弟が俺の弟になったその日の夜。11歳になる1か月前。蒸し暑い真夏の夜だった。 冷房でキンキンに冷えた部屋の中で、綿の掛け布団に包まったままベッドから一メートル程上空を浮いていて。 叫ぶことも出来ず。 冷房のせいで心は冷え切って。 俺はその場を動けなかった。 最初は小学生特有というか、あの年頃にありがちな妄想と現実の区別がつかない、謂わば夢か何かだと思っていた。寧ろ、そうでなくては説明がつかない。だがそれが夢ではなく現実なのだと思い知らされたのは、新しい母にも父にも言えずに悶々としていた一か月後。誕生日の翌日に弟の本当の兄から言われた、 「なぁ。樹生の奴、そっちでも浮かんでたりしてるか?」 だった。 *** 「…え?」     
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