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「何が悪かったんだろうな」
ベッドの上で、和人は、私のことを思い浮かべて、言った。私は、ちりぢりになっていた私をかき集めて、彼の全身を覆う。「どうしたの、突然」と千聡は不思議そうに問いかけた。
「ふと、千咲のことが頭に浮かんできてさ。とりわけ良い奴というわけでもなかったけど、悪い奴でもなかった。なんだけど、どうしてか好きにはなれなかった」
「お姉ちゃんは、空っぽだったんだよ」
「空っぽ?」
「そう、空っぽ」
千聡は、和人を見る。
「お姉ちゃんは、見た目は良いのに臆病で、不器用だった。お母さんとお父さんに好かれようとして、甘い声を上げるんだけど、お母さんとお父さんには崩しようのない壁があった。本当に血を分けた子どもなのかという、疑念。見た目が似ていないという理由だけで」
「……可哀想な話だな」
「私は、そうは思わない」
「どうして」
「お姉ちゃんは、自分から誰かを愛そうとはしなかった。愛されることを待ち続けた。なまじ、恵まれた容姿をしていただけに、その受け身で空虚な姿勢が腹立たしくて仕方がなかった」
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