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看護師さんがカルテ片手に名前を呼ぶ。
「はい」
突然須佐くんが立ち上がった。え?
「おい、呼ばれてんぞ」
「はあ?」
呼ばれてませんけど。勘違いじゃないの?
「…お前はいま『須佐佳奈』なんだよ」
「……………あ」
須佐くんの言い分を信じれば、わたしは須佐くんと結婚している。つまり「佐藤佳奈」ではなくて「須佐佳奈」になるんだ。
ぐいっと腕を引かれて須佐くんの後について診察室へ入っていく。
「どうぞ」
中にいたのは優しそうな、多分須佐くんと同じ年齢くらいの女医さんだった。椅子を勧められて腰掛ける。須佐くんは隣で立ったままだ。
「お久しぶりです」
……お久しぶり?須佐くんと女医さんは面識があるのか。知り合い?
「その後体調のほうはどうですか」
にこにこと先生が話しかけてくる。その後?
「それが、」
須佐くんが昨日のことを順序だてて話し始める。
帰宅したら様子がおかしかったこと。話を聞くと15年前のできごとをさっき起こったかのように話すこと。15年分の記憶がなくなっていること。
徐々に先生の顔が険しくなっていく。
わたしおぼえている限りのことを必死に話す。だっておかしいのはこの状況なんだから。
「……念のため、検査しましょう」
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