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検査でも何でもうけてやる。おかしいことなんてひとつもないんだから。
診察室を後にして今度は脳の検査をする部屋へと案内された。
「ねえ須佐くん」
「なんだ」
「頭おかしくなったなんて思わないでね。おかしいのはこの状況なんだから」
「……わかったから、おとなしく検査を受けて来い」
「脳に異常は見られません。一種の記憶喪失でしょう」
女医さんは検査結果をみてそう言った。
「記憶喪失…」
隣に立つ須佐くんが納得といったような顔でうなずいた。
「なにか強いショックがあって、一時的に脳が混乱しているようです。時間が経てば思い出しますよ」
「思い出す…」
思い出すも何もないものは思い出せない。けれども先生と須佐くんの間で話は進んでいく。
「大丈夫ですよ、こういうことはわりとあるんです」
わりとあるとか、大丈夫とか、いまのわたしは全然嬉しくない言葉だ。
「普通に生活してください。あと、いつもの薬も出しておきますから、必要なら服用してください」
「…いつもの?」
「必要ならば、なので旦那さんお任せします」
「佳奈、あとで詳しいことは話すから」
「あくまでゆっくりと、でお願いしますね。混乱してしまいますから」
十分混乱していますなんて言えない雰囲気だ。
会計を終えて、車に乗り込む。
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