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いまの状況が信じられない。
本当に記憶喪失なのだろうか。信じたくない。
「……わたしの家に帰る!帰るったら帰るんだから!送ってって!」
「いまから帰るだろ」
須佐くんが運転席からちらりとこちらに視線を走らせる。
「わたしの家!お父さんとお母さんに会いたい」
そうだ。わたしにはお父さんとお母さんがいる。その家に帰ったらいいんだ。
須佐くんや病院の先生からすれば30歳の「須佐佳奈」だけど、お父さんたちにとっては「佐藤家」の娘であることは変わり無い。話をすればきっと分かってくれるはずだ。
「実家に帰らせていただきます」
なぜか須佐くんは苦い顔をした。
「どうしたの?」
やっぱりいい思いをしないのだろうか。「妻」が実家に帰りたいなんていうのは。でもそれが一番いい気がする。
あくまでわたしからみた須佐くんは他人だ。いくら須佐くんが違うと言っても。他人の家にいつまでもお世話になるわけにはいかない。
「…ねえ、どうしたの?」
黙りこんだ須佐くん。
「やっぱりここは家に帰っていったん仕切りなおしたほうがいいと思うんだよ」
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