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タイムトリック・パニック 5
「今日は仕事に行って来るから」
須佐くんはスーツに着替えネクタイを締めながらそう言った。
「…うん」
ひとりきりになるのは心細い。でもわがまま言える立場じゃないことぐらいわきまえている。
「外に出てみるか?」
「ううん、家の中でゆっくりしている。昨日食べ物たくさん買ったし、なんとかなると思う」
「なにかあったら電話しろ」
会議中以外は出られるからと、須佐くんは電話の横にあったメモ用紙をやぶって数字を書き込んでいる。
「…うん」
数字が羅列されたメモを渡されて、須佐くんを見上げる。
「行ってくる」
玄関まで見送ってリビングへと戻った。
ぽてんとソファに身を任せる。見上げた白い天井。
考えなければならないことはいくつもある。でもどこから手をつけていいかわからなかった。天井に向かって伸ばした手。左の薬指には指輪がはめてある。
なぜわたしはタイムスリップをしてしまったのだろうか。いや、認めたくないけど15年分の記憶がないのだろう。15年後のわたしにそれだけの衝撃があったんだろうか。
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