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タイムトリック・パニック 2
目の前にある状況が信じられない。
という言葉をたびたび使ったけど、この状況ほど適切な言葉が浮かばない。
もう一度言葉を変えて言おう。
ありえない。
鏡の前で呆然と立っているわたしを見るに見かねてか、腕をつかんで今来た道を戻って行く。
先ほどまで横になっていたソファに、今度は座らされた。
「コーヒーでいいか?」
「すみません、コーヒーはちょっと」
ちょっともなにも飲んだことないのだ。味は話を聞いて想像するに、苦いと思う。とても飲めそうではなかった。普段は紅茶だし。
「ああ、そうか」
男性はぼそりと呟いてキッチンの方へと歩いていった。
しばらくして両手にマグカップを持ってやってきた。ひとつ、わたしの前に置いて正面に座る。紅茶のいい匂いが鼻をくすぐる。
「で?」
マグカップを口に運びながら男性は話を続けた。
「で?ってなんですか」
「いったいどこまで、いやいつのことまで忘れているんだ。覚えていることは?」
忘れている?覚えていること?
忘れていることなんてない。覚えていることと言えば階段から落ちたことぐらいだ。
「学校で階段から落ちて」
「いつの」
「いまです」
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