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枝葉の陰から、月が見える。今夜は満月だった。
長期に渡って人の手が入っていない山の樹海は、ひどく爽やかな空気に満たされている。
土壌も綺麗なものだし、見渡せば美味しそうな果実もなっている。
何より誰もいない。
公式に誰のものでもなく、人の土地だとがなり立ててくる老人もいない。
自分を知っている人がいない。そんな場所が、こんなにも心地よいなんて思わなかった。
それと当時に、自分が死にたかったわけでもなく、忘れられたかったのだと気付く。
誰の気配も感じ取ることなく、ただ自然に俺は目を閉じる。
心の中に澱のように溜まっていた、諦めと死の気配が消え、意識は自然に、これからの方向を向いていた。
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