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ここまで書いて僕はペンを机上に置いた。妙に乾いたその音が、僕の体に反響したように感じる。本当はあの日、僕は影を捨てなかったのだ。だってそうだろう?そんな馬鹿げた話があるはずがないじゃないか。この世界には悪魔も宇宙人もいないのだ。だから僕があの日謎の男Xに対して、レジで店員に対して言うように目も合わせず結構です、と答えたのは間違いではない。もちろん、僕が普通なら。僕には猫5ダースほどの好奇心があり、少年の心が血液みたいに全身に巡っていたはずなのに。それが僕の全てだったはずなのに。あの日、僕は僕の全てを捨ててしまったのだ。子供みたいに泣きじゃくりたい衝動が乾いた瞳に押さえつけられて、少しだけ苦しい。僕がずっと最上の価値があると信じて疑わなかったものがなくなっても、僕は変わらず生きられる。それをひどく悲しく感じたいのに、ほんのひとひらの寂しさにしか触れられない。僕は大人になったのだろうか。こん
な面白みもないものが大人だというのだろうか。こんな感情だけ、嫌になるほど子供みたいだ。
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