「かしこまりました」

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「マーマレード分働いてるか?」 ふいに後ろから相澤に声をかけられた。 ええ。働いてますとも。 そう言いながら振り返ろうとしたら、相澤から思いがけない言葉を言われた。 「ちゃんと一つずつ確認しないとこうなるからな。お前、目の付けどころは悪くないんだけど、チェックが雑なんだよ。次からは気を付けろ」 もっと悪態をつかれるかと思ったのに、予想外のやんわりとした注意に驚いて振り向く。 帰り支度を終えたのか、仕事用のカバンを持った相澤は反対側の手にさっき寄せたジャムの箱を持っていた。 ん?何で持ってるの? と疑問に思う間もなく、相澤は唯ちゃんがいるレジにその箱を持って行き、代金をさっさと払ってしまった。 「ほれ、ノルマ」 そして私に半分渡す。 「これで新しいシリーズの食パンとかを味見してみろよ。パンは自分で買えよ」 「て、店長!私のミスですから、ジャムの代金は払いますって!」 「いいよ。まぁ、毎日発注をチェックできるシフトにしてなかった俺の責任でもあるしな。……俺もマーマレード好きだし。だから、今回はいいよ」 「す、すいません……」 相澤は「じゃあ、おつかれ」と、謝る私に背を向けてさっさと帰って行った。 「店長、怖い人だと思ってましたけど、意外と優しいとこもあるんですねぇ」 私達のやり取りを見ていた唯ちゃんが言った。 「そうだね……」 怖い人、冷たい人、嫌みな人…… でも、時折見せる笑顔は甘くて、本当は優しいのかもしれない人…… …………相澤 樹という人は、よく分からない人だ。 マーマレードジャムの箱をぼんやりと見ながら、私は思わずため息をついてしまっていた。
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