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 走る列車の窓から、ぼんやりと外を眺めていた。  風景は高速で通り過ぎていき、地面はコンクリートから茶色の土になり、建物の屋根はガルバリウムから瓦屋根に変わる。瓦屋根が増えてきたあたりから、風景の流れる速度は少しずつゆっくりになった。同じ車両に乗っている客も、僕を含めて数名というところだ。  段々と故郷が近づいていくのを感じながら、僕はこれまでの自分の人生を思い出していた。  僕の故郷はそれなりに田舎だが、茅葺き屋根の家が残っているとか、コンビニまで行くのに徒歩一時間というほどのものではない。駅前に行けばチェーンの居酒屋が数店あり、国道の周りにはぽつりぽつりと商店が点在していて、郊外には、畑の中に巨大なショッピングモールが立っているような地方都市だ。  しかし一度街中を離れると、農道をトラクターが徒歩より少し早いくらいのスピードで走っているような町だった。  本当の田舎に住んでいる人からしてみれば、十分に都会と言えるかもしれないし、一生をここで暮らそうと思えば暮らせるような町だ。現に、僕の両親も生まれてこの方、他の町に住んだことがないという。     
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