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タナベの水月に修介の右拳が鋭く突き刺さる。そこから一方的で執拗な連撃が加わる。
左側頭部に左のハイキックが入り、返す踵で蹴りを入れ、大きく横に崩れたタナベの頭部がゴムボールみたいに正中線へと戻される。
間合いを詰め低く飛び、修介の伸びた両の手がタナベの後頭部を鷲掴むと、修介は右膝をタナベの顔面にめり込ませる。ぐにり、と鼻骨が折れ、前歯も同じタイミングで粉砕された。
中空で体を丸ませ、両手は未だ後頭部を掴んだままの修介が全身を後方に向けて勢いよく伸ばし、タナベは引っ張られるようにして顔面から地面に叩き付けられる。
修介も地面に全身を伸ばした状態でうつ伏せになっていたが、タナベが焦点定まらぬ目をして顔を上げたタイミングでクラウチングスタートの状態からサッカーのPKでもやるみたいに右足で大きくタナベの顔面を蹴り上げた。
タナベの上半身が反り返り再び地面に倒れ込むよりも先に体を一回りさせ、左の後ろ回し蹴りで正確にタナベの顔面を打ち抜いた。
タナベはひどく混乱した。
どうして自分が修介なんぞに後れをとるような状況に追い込まれたのか甚だ理解できなかった。
モニターで見ている大多数の人間にとっても同じ感想だ。
ランキング最下位に近い者が上位のものに瑕一つ付けられる筈がないわけで本来であれば起こり得ないことなのだ。
この番狂わせは大勢の熱狂で迎えられた。
万年うだつのあがらぬ補欠者のジャイアントキリングだ。
モニタのオッズが跳ね上がり、60%の上昇をみせる。
大口がここぞとばかりに仕掛け、イナゴが群れ更なる上昇を呼び、数秒の後に0.58XRPが最終的に2184.665XRPまで伸びた。
修介の連撃は止むことなくタナベに反撃の隙を与えない。
大口の投資家共はモニタの向こうでどのタイミングでロング焼きを行うか食い入るように見て、魅入っていた。
修介はタナベの首筋に噛み付くとそこから両の手で皮膚を裂き、タナベの筋肉を引き千切って、血の飛沫を浴びながら脊髄を引きずり出して見せた。
その時点で勝負は決まったが、問題はその後だ。
その瞬間に大口達がロング焼きを行ったまでもよかった。
問題は修介がタナベの脊髄を喰らい始めた事だ。
タナベが適合できていた脊髄を食することで、修介も亦、その効用にあやかろうというのか。
しかし、修介にそんな思考を持てる程の能力はないのだ。
単純な、至極単純な本能、それでしかない。
モニタ越しにはしゃぐ者もいれば、カニバリズムに絶句する人々もいる。
ランキングが入れ替わり、修介はこの街での王者と化した。
して、タナベの脊髄を経口摂取した修介の適合、その結果は如何程のものか。
突如、修介の真上に5機の無音攻撃ヘリか出現した。
催涙ガスと共に、兵士達が降下し、修介に麻酔銃にて修介を眠らせその身柄を拘束、拉致した。
わけのわらぬのその出来事は別段、人々の関心を引き付けはしなかったが、たった一人、その街にて修介の身元を追っていた女だけには違った。
「やっとみつけたよ、修ちゃん」
中華屋でバイトをしながら修介を追っていた杏子はようやく、修介をみつけだすことができた。
2年という歳月が長過ぎたのかかは別として、こうして二人の物語は進展をみせることとなる。
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