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たくさんの人の思いでできているっていうこの街の方向性は一部のエリートの悪意で形成されている。
タナベはこの街で王者として君臨しているが見世物としての意味しかない。
そして修介はそんなことを考えることすらしない、というよりもすることができない。 常にぼんやりとした感情と危機感によってのみ動いている。他人を考慮できないのだから自分のことすらまともに認識できているかどうかすらも怪しく、そこに社会性としての立ち位置など猶更皆無といえる。
タナベの部屋から武器コンテナが飛んできた。
小型レールガンから、超振動ブレードナイフまで満載した死の棺だ。
ここにタナベを止められる者はだれもいない。
夏の爽やかな風が吹き抜け道端の雑草が朝露に濡れて陽の光が碧い葉を輝かせる。
修介とタナベの二人だけの世界、静寂の遠い所で爆発音が響き、誰かの叫ぶ声がする。崩れるコンクリートのビルが土煙を上げ、空中ではお遊びで誰かに撃たれたドローンが火花を散らし、飛散しながら落下していく。
周囲の有り様などおかまいなしに、二人は互いに睨みあっている。
「哀れな、本当に哀れだ。わかるか? 修介。お前は俺の残りカスみたいなもんだ。この場でおっ死ぬのがお前の運命だ。俺が喰ってやる! お前を喰ってやるぞ! 糞の役にも立たないこの腰抜けめ! 殺し損ねたあの日を今日、ここで! 終わらせてやる!」
今、タナベを彩っているのは狂気そのもので、修介にどうしてここまで執着できるのかこの街の誰もが疑問でしかないだろうが、、そこにあるのはやはり単純な恐怖心でしかない。
もう一つの未来、もう一人の自分、殺戮の街の王者であるタナベの心の隙間に巣食う闇など一体どこの誰に想像できるだろうか。
だが、しかし一人だけいるのだ。皮肉にも修介だけがタナベの心の闇にうすらぼんやりと気付いていた。
そしてそれは、修介にどのような行動をもたらすのか。当然、同情などしない。哀れみもしない。和解や、妥協点を探ることなど考えつきもしない。
タナベから向けられた感情は修介にとって、単純に脅威であり、危機的状況という認識しか生み出さない。タナベへの心情の想像の余地など一切ない。
修介の導き出した解答からの行動はたった一つ、今そこにある危機、その排除だ。
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