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「おはようございまーす」
出勤時刻にわずかに遅れ、きょろきょろと辺りを見回しながらドアを開けると、真正面のデスクで、長いブロンドがさらりと揺れてこちらを振り返った。
「あらコウちゃん、ちょっと遅くなぁい?」
「すんませんアサコさん、社長は……?」
「マダ。内緒にしといてあげるわ」
「どもっす」
長いつけまつげをばさりと揺らしてウィンクしたアサコさんは、そのままにっこりと微笑んだ。
おれの職場は小さな芸能事務所で、駅から程近い雑居ビルの三階にある。
アサコさんはそんな我が事務所の稼ぎ頭で、所謂オネエタレントとして活動していた。
身体つきは華奢ではないが、顔がキュッと小さくてテレビにも雑誌にもよく映えるので、最近少しずつ人気が上がってきている。
おれは事務職での採用だったけど、入ってみれば仕事内容は雑用全般といったところで、タレントのスケジュール管理などマネージャーじみた仕事も多く請け負っている。マネージメント担当の代わりにアサコさんに同行することも少なくなく、タレントと職員ではあるものの、すっかり気安く話せる間柄だ。
「コウちゃん、スマホちかちかしてるわよ」
アサコさんの声にスマホへ目を向けると、プライベート用のスマホの通知ランプが点滅していた。そういえば、姉ちゃんが郵便物の写真をメールに添付するとか言ってたっけ。面倒に思いつつも、社長はまだだし確認くらいはしておくかと、スマホを手に取った。
「あら、高校の同窓会案内? 今時はがきとか、随分古風ねぇ」
興味本位で覗き込むアサコさんを咎めることもせず、おれは金縛りにでもあったように画面に表示されたはがきから目を逸らせずにいた。
同窓会なんてものはどうでもいい。高校の同級生なんかに興味はないし、参加する気も全くない。だけどその下についでのように書かれた文言が、おれを強く波立たせた。
当日、タイムカプセルを開封します――。
それはおれにとって、十年前に葬ったある女を掘り返すという、通告だった。
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