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埋葬したものがもう一度掘り起こされる日がくることを、あの時のおれは考えもしなかった。
タイムカプセルだ。過去から未来へ送るものなのだから、開けられる日がくるのは当然で、むしろ開けるために埋められるものだといえる。でもあの時は逃れることに必死で、あの日息の根を止めた女の残骸を葬ることしか、おれの頭には存在しなかったのだ。
「ねぇコウちゃん、聞いてるぅ?」
呼び掛けられたテノールの声に、おれははっと意識を浮上させた。
アサコさんの郊外でのロケに帯同した帰り道、今日はこの後オフだというアサコさんに連れられて、遅めの昼食をとろうとファミレスに入ったところだった。
一応芸能人であるアサコさんを気遣って座った奥まったテーブル席には、向かい合って座るおれとアサコさんを挟んで、香ばしい珈琲の香りが漂っていた。
「……あ、すんません。なんでしたっけ」
気の抜けた声で返事をすると、あからさまにアサコさんが不愉快そうな顔をして見せた。
「もう、あんた朝からずっと心ここにあらずなんだから。失礼しちゃう」
「すいません」
「やだ、そんな素直に。本当にどうしたのよ」
「や、別に……」
なんと返事をするわけにもいかず曖昧に返すおれを、アサコさんは珈琲も飲まずじっと見つめてくる。
おれはその目になんだか全てを見透かされてしまうような気になって、慌てて合わせていた目を逸らした。そのまま沈黙をごまかすように水を呷って飲み損ね、派手な音を立ててむせ返る。
そんなおれの様子にアサコさんは面食らいつつも、注文したメニューがタイミングよくやってきたのを見て「とりあえず食べましょう」とおれへ促した。
言ったきりアサコさんがなにも言わずに食べ始めたのを見て、ようやくおれも箸をとった。
いつのまにか注文していたらしいハンバーグセットは、あまり味がしなかった。
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