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「光きてたんだ。連絡とれないって聞いてたからさ」
笑うと目元が優しげに下がるこの男は、おれのよく知っている顔のまま微笑んだ。
「……拓真、おれのことわかるんだ?」
まるで高校の頃と同じ容姿の女に話しかけるような気安さで話す拓真に、おれはよくわからない気持ちになる。
性別適合手術まではしていないとはいえ、胸の手術とホルモン治療をしているおれは、姿はおろか声までもが昔とは別人になっている。見た目だけでいえば、少々童顔な男そのもののはずだ。
けれど拓真は、普通なら戸惑うであろうおれの姿に、昔と同じ懐かしい笑顔を向けておかしそうに笑った。
「そりゃわかるでしょ。昔好きだった人の顔くらいわかるって」
まぁ随分かっこよくなってるけどね。そう冗談めかして笑う拓真に、おればかりが困惑する。
おれはあまりにも普通に接してくる拓真にいたたまれなくなって、自分から話を切り出した。
「お前、なんか思ったりしないのか? おれのこと見て……その、思うことあるだろ」
男らしくもなくもそもそと言うおれに、相変わらず拓真はあっけらかんとした調子で言う。
「まぁ少しは驚いたよ。でももしかしたらとも思ってたんだ」
「え……?」
「本当、なんとなくだけどね。普段の態度とかもそうだったけど……なにより俺が手紙渡したとき、お前すげぇ傷ついた顔したからさ」
卒業式の前の日。呼び出されたおれが拓真に渡されたのは、女としてのおれ宛てのラブレターだった。
そしてそれはおれにとって、ずっと仲が良かった拓真に女として見られていたという、死刑宣告と同じだった。
「脈がないのはわかってて告ったけど、事情知らなかったとはいえ、あんな顔させる気はなかったんだ。結局あのままになっちゃったし」
拓真は少し俯くと、さっきまでよりわずかに苦そうに、けれどしっかりとした声でそう言った。
まっすぐに向けられる拓真の言葉に、あの日の残像がおれの前でぐらぐらと揺らめく。
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