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第一章 まとの蛍
「思ひきや的(まと)の蛍のしるしなき染(し)みのすみかとなさんものとは」という樋口一葉のこの和歌。この歌には果してどれほどの彼女の失墜感がこもっていることでしょうか。経済的に八方ふさがりの連続のような人生、みずからが日記や和歌、小説に記したような生き方、言挙げした本懐をつらぬくことがなかなかできません。「お金がない」ということがどれほど辛いことか……文芸も何も、およそすべてを台無しにしかねません。このうっ屈の中をしかし一葉は奇跡のようにくぐり抜けて行きます。わずか24才という短い人生の中で、はたしてそれはどう為されたのか……その「軌跡」を描きたいというのが当小説の趣旨です。女性復権というだけではない、世と自らへの桎梏に抗う一葉の姿をぜひご覧ください。著者・多谷昇太より。
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