下人の行方をなぞる旅路さ

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 疲れた。  スマホに打っていた陽気な文章を閉じる。難しいなぁ死後に見られる文章をライトに書くのって。    午後を回った普通列車。まだ帰宅時間には早いため乗客はまばらだ。周りに人がいないのをいいことに俺は足を広げ、固い座席に深く腰をかける。  荒れる息。呼吸でどうにか飼い慣らそうと努める。苦しい、苦しいが、弱音を吐いてもどうにもならない。賽は投げられたんだ。  リュックの中に手を入れ探る。  痛み止めが一週間分。睡眠薬も同量。それにウイスキーの小瓶。まだ太陽の支配下だ。定番の痛み止めにしよう。  ペットボトルの水で薬を飲み下す。しばらくそのままじっとして待つとだんだん脂汗は引いてくる。医学はさすがだと、毎回大いに感動する。だがその医学が俺を余命数週間と宣告したのだ。感動のあとの絶望。感情は揺れ動いて忙しないな。    猫を捨てたあの日からゲームはスタートしたんだ。同時にカウントダウンも。  所持金は十万円。一週間分の薬と酒。これで一週間以上生き延びられるか否か。文字通り己の命を賭けたゲーム。  もしこのゲームに勝ったら自分への褒美で、その夜は酒と睡眠薬を飲んで野外で寝る。いくら南へ向かうとはいえ夜は冷えるだろう。そのまま朝を通り越して永遠に眠れるだろう。もしゲームに負けたならそれはそれで、どこかで眠っているということだ。  しかし失敗した。勝っても負けてもどのみち眠る事になるなら、いつも使っている枕を持ってきたら良かったな。使用感ありありの枕で死んでる行き倒れ。遊び心あるシュールな絵の完成だ。
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