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薬が効いてきたようだ。痛みがなくなると、気持ちが解放されて大胆になってくる。
リュックの中身、それでなくても大したものも入っていないのに、あえてハンデを負うように食い終わった弁当が入っているゴミ袋に放り込む。ティッシュ、耳かき、歯ブラシセットももうどうでもいいや。
手が文庫本に触れた。
カバーもとれてしまった芥川龍之介の「羅生門・鼻」。
よく無人島に一冊だけ本を持って行くなら何にするという質問がある。聞かれるたびにその時の気分で決めていたが、最後に俺が選んだのはこれだった。
歯ブラシは捨てられたのに、これは手の内で逡巡し、ペラペラめくってから尻ポケットにねじ込んだ。
OK、単純に格好付けだ。行き倒れのポケットから芥川龍之介なんてクールじゃないか。少なくとも染みのついた枕よりは決まってる。
『下人の行方は誰も知らない』
何十年も前に書かれた二次元の主人公を道行きのパートナーとしよう。
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