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「読み終わった貴方に、捨てられない思い出を作ってしまったことを謝ります。っと」
私は何度書いたか分からない最後の一文を呟いて、何度書いたか分からない遺書をクシャクシャに丸めてゴミ箱に捨てた。
どうしても耐えられない悲しみの後に、こうやってうんと悲劇のヒロインぶって悲しみや苦しみを思い出しては、涙ぐみながら文字に書き出すのが習慣になっている。
初めて遺書を書いた時は、本当に死のうと思っていた。けれど結局勇気が出ず、その後は辛い事がある度に書きなぐっていた。
そのうちに、自分はどれだけ辛くても死ぬ勇気は無いのだという事に気付いた。
そうして、この遺書を書いた後、ほんの少しだけ楽になっている自分に気付いたのだ。
生きていくのは、辛い。自分にはもう何にも無いように思えるのも本当だ。
けれどその実、捨ててしまった物の代わりだって、何処かにあると未だに信じている自分もいる。
悲しみに包まれている時には何も見えないが、それを全て書きだした後には、ほんの少しだけ生きていく気がしているのだ。
私は、沢山の物を捨ててきた。命すらも捨てようと思っていた。
けれどとりあえずはまだ、この遺書を捨てたことを後悔したことは無い。
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