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X回目の遺書
書き出しはいつも同じ。
「私は、沢山の物を捨てて生きてきました」
薄暗い部屋で一人呟き、泣き腫らした目でペンを走らせる。
私は、今日も遺書を書いている。
『私は、沢山の物を捨てて生きてきました。
でも、それらを細かく綴るなんてことは野暮というものです。
誰だってそうだと思うのです、誰もが沢山の物をやむを得ず捨てて生きていくのですから。
私は沢山の者に捨てられて生きてきました。
でも、恨み言を言うのも野暮というものです。
誰だってそうだとはいいませんが、よくあることのはずなのです、人生は別れの連続なのですから。
よくある、よくあることなのです。けれど私はどうにももう、生きていくのが辛い。
ありきたりで、誰にでも訪れるような悲しみや苦難に、どうしてか耐えられなくなる人間がいることを私は知っています。
それが私なのでしょう。それが私だということを、私は知っています。
私の中にも、私の周りにも、もうほとんどの物が残っておりません。
捨てて生きてきましたとは言ったものの、誰が捨てたかったでしょうか。
ああ、夢だなんて、恋だなんて、希望だなんて。なんて懐かしく、羨ましく、忌々しい。
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