小さき世界で日を浴びて

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小さき世界で日を浴びて

 私は今日もご主人様から優しい水を浴びる。  今日は天気がとてもいいわ。  お日様の光を貰ったら、昨日よりももっと素敵になれるわね。 「少しずつ伸びてきたよ。きっと可愛い花になるね」  私の大好きなご主人様。  あなたの為に、私は存分に水を吸って綺麗な空気を貰って、沢山日光の力を浴びるの。 「行ってきまーす」  元気な声のご主人様。  行ってらっしゃい、早く帰って来てね。待ってるわ。  その日は、ご主人様は帰って来なかった。  いえ、その日からご主人様は帰って来ていない。  変だわ。ご主人様のお陰で私はこんなに綺麗になれたのに。  あれから背も伸びて、綺麗なお花になったのよ。  誰かの気配がする。ご主人様?  私、喉が渇いてたの。せっかく綺麗になったのに、全身カピカピになりそうだった。早くお水が欲しいわ。  でもおうちに来てくれたのはご主人様じゃなかった。  不思議な事に、みんな真っ黒い服を着て泣いている。 「あの子ったら、お花を育てる趣味があったのね。渇ききっちゃって…可哀想に」  久しぶりに浴びる水は、何故か寂しい気分。  …ご主人様はどこに行ったのかしら? 「あの子が大切にしていたお花、しなしなだったけど少しずつ元気になってきたわね」  あの子って、誰の事?  私の大好きなご主人様はどこに行ったのかしら。  きっと可愛い花になるわねって褒めてくれたご主人様は?  あれから、私は彼女と会っていない。  私は今日も優しい水を浴びる。  でも、水をくれるのはあのご主人様では無い。  また彼女に会えると信じて、ご主人様と良く似た人々から水を浴びている。  ほら見て、ご主人様のお陰でまた大きな花を咲かせたのよ。  私は彼女の為に、これから何度も何度も大きな花を咲かせよう。  
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