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喘ぐように喉が震え、はあはあと呼吸が荒くなる。そこに殺意という粘着質の感情が流れ込んできて、干上がる口内をねっとりと張り付かせていく。ガタガタと揺れて崩れそうになる膝は、恐怖に支配されていることを表していた。
「なんであんた達に殺されなきゃいけないのよ! 父様と母様を殺したくせにっ! 父様と母様はあたしを逃がしてくれたのに! なんで追ってくるのよ!」
ミーナは、大声を出していなければ自分がどうにかなってしまいそうで、血でも吐きそうな悲痛な声で必死に叫んだ。
けれど、人が死ぬ瞬間に慈悲などない。
「アルマディウス家は裏切った。制裁を加えるのはその為だ」
突如として、目の前に現れる暗殺者。
不気味な面の奥で暗く光る瞳と、ミーナの視線が絡む。
躊躇いはなかった。手に持ったのは短剣だった。ミーナの白い喉に添えられていた。
ひやりとしたその刃に少しでも力が入れば、噴水の様に血は吹き上がってしまう。
「死ね」
暗殺者の最後の宣告が静かに響き、短剣を握るその手に力が入ろうとした。
そのとき。
ズッ――ッッドゥウウウウウウウウウウウウウウンッッ!!!!!!!!!!
大音響を伴う強烈な衝撃が空間を薙いだ。
周囲の草木が振動するほどの衝撃はアグニが焚いた火を吹き飛ばし、細い木々を次々とへし折り、頭上を飛んでいた鳥を気絶させて、今まさにミーナを殺そうとしていた暗殺者を含め、その場にいる全員の動きをピタリと止めた。
山それ自体が息を止めた様な、射竦(いすく)められてしまった様な。
超絶するそれは ―― 魔力。
しかし、その中で動ける者が一人いた。
アグニ・セイティフス。少女暗殺というこの現場で、唯一無関係の男だ。
その無関係者は、幽鬼の如くゆらりと立ち上がると、静かに問う。
「――誰だ?」、と。
地を這い出た悪魔のような、底冷えする声で。
「――誰だ?」、と。
膨大な魔力によって体から立ち上る深紅のアウラを揺らめかせて。
「――誰だ?」、と。
そして歯を剥き出し、口から溢れる闇を幻視させながら、強烈に叫び問うのだ。
「俺の昼飯を台無しにしたのは、誰だ―――――――――――――――ッッッッ!」
ズゴウボワアアアアアアアアアアッ!
魔力を視覚化したものであるアウラが、まるで地上から深紅の稲妻を立ち上らせたような馬鹿げたエフェクトを作り出した。
「「「そんなバカなっ!」」」
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