第一話

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 暗殺者をお星様にしたアグニは小さな溜息を吐くと、何事もなかった様に(たきぎ)を拾い集めて、もう一度火を熾した。魔力の解放時に気絶して落ちてきた鳥を拾い、手際よくばらして火にあてると、腰に下げた皮袋から黒パンと胡椒を取り出して、また昼食を開始する。  大きな欠伸を漏らすアグニに、先ほどまでの恐ろしさは微塵も感じられない。  どころか、火の中で生木が爆ぜて「あちちっ」と言う姿からは、幼さまで垣間見える。  ミーナは、そんなアグニを量り兼ねているのか、オドオドと言葉をかけられずにいた。  結果的ではあるにせよ、助けてくれたアグニに、お礼を言いたかったのかもしれない。  しかしミーナは、胸にあるとても大きなものに言葉が引っかかって、口は開けても声を出すことができずにいた。  それは、他から見れば奇妙な光景だったろう。  火加減を黙々と見つめるアグニと、その後ろで困ったように立ち尽くすミーナ。  けれど、剣呑な雰囲気は欠片もないのだから。  互いに話しかけず、ゆっくりと流れていく時間。  山を抜ける風が(こずえ)を揺らす音を聞きながら五分が経ち。  鳥たちの囀りがコーラスの様に聞こえ始めて十分が経って。  火にかけた鳥肉が良い具合に焼け、胡椒(こしょう)の食欲を誘う香りが匂い始めた頃にようやく、 「……っ、ひう……えっぐ、うぅ――ぐぅう……」  ミーナは泣いた。 「あ、あああああああアアアアアアアアアアアアアアアア――――――ッ!」  声を張り上げ、ローブをぎゅっと掴み、立っていられずに尻を落として。  一粒がほろりと落ちれば、堰きを切ったように次から次へと溢れてくる涙。  聞いているアグニの方が辛くなるような泣き声を上げて、ミーナは顔を汚した。  けれどアグニは、泣き声を聞いて驚かず、そこを離れようとしなかった。  少女であるミーナにどんな経緯があって、何故暗殺者に追われていたのかなどは分からないが、涙の理由にならアグニにも覚えがあったから。  ――親が、殺された。 「……ァ、父様、っ……母様ぁ――ァあ、ああああ、ッッ――ああああああああッ」  だからアグニは、もう一度ここで昼飯を作っていた。自分でも、らしくない事をしているなんて分かっていた。ただアグニは、彼女の悲しみとよく似た悲しさを知っていた。  だから。焼き上がった鳥肉を半分、名前も知らない少女の鼻先へと持って行くのだ。
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